世界映画史上に残る超激渋作品のひとつ。
しかし凄い作品です。本当に。
そして世評の多くには、「圧倒的に強烈に心に残る」こと、「見終った後しばらく呆然とした」こと、そして「これを超える潜水艦映画はありえないだろう」ことが記されています。
では、観客にそこまで言わせる本作の特質というのは、いったい何なのでしょう?
考証の正確さ? 俳優の熱演? 派手な戦闘場面を抑えた硬派なシナリオ? あるいは、ハリウッド映画への反骨心に満ちたあのアンハッピーエンド? いろいろな要因が挙げられています。あの作品を実際に観た者としてはいずれも深くうなずける感じです。が、しかし、それらが本作と他の潜水艦映画たちとを決定的に隔てるポイントたりうるのかと冷静に考えてみると、実は何気に疑問だったりします。すべてが『Das Boot』の専売特許というものでもないし、また、そういった要素をすべて集めれば「傑作」が自動的に出来上がるわけでもありません。というか実際のところ特撮場面など、後発のハリウッド作品に比べるといかんせんしょぼさが目立ちますし。
でも、実際自分も「これを超える潜水艦映画はありえないだろう」と思っています。
なぜかというと.....これはあまりにも極私的な意見で恐縮なんですが、実際に感じたのだからこう書くしかない.....例えばあの、フランスの軍港を出撃するシーン。「正確な考証でよくできている」という以上の何かが画面から漂ってくるように感じます。バックに映っている景色やその場の空気までもが「1941年当時になりきっている」というか、いやむしろ「1941年を呼び寄せてしまった」というか。なにやら、ただ単に「リアル」というのとは違う価値がそこにあるように思えるのです。
でもってこれは当然人物描写にも反映されるわけで、そのへんは枚挙にいとまがないのですが、特に凄かったのはジブラルタル海峡突破に失敗して急速潜航したのもつかの間、機械故障のためどこまでも沈下し続けてしまう場面です。あの場面の艦長以下の雰囲気、あれはもう演技とかそういうものを超越していました。まさに実際のUボート乗組員が憑依したような.....そう、ここで自分は気づきました。これだ、この映画が観客の内面に訴えかけてくるおそるべきパワーの根源はここなのだ! ということに。
もう本当に極端なことを言ってしまえば、この映画は、たぶん無自覚なんだろうけど、製作スタッフ・キャスト・大道具・小道具・セットが一丸となって、歴史のスピリットを後世に伝えるための巨大な霊媒みたいなものと化したから、あそこまで「凄い」作品になったんじゃないかと思うのです。だから、いくら特撮場面がしょぼくても、いや、頭ではしょぼいと認識しながらも、心では全然そう感じられないのです。それが、「Uボート乗組員4万人のうち3万人が帰らなかった」という、その3万人の魂を真正面から受け止めた映画の底力というものでしょう。
そして、それゆえに、観客はこう感じることができると思うのです。「この映画には、単なるエピソードの積み重ねを超えた真実に向かう力がある」と。これこそ芸術の力の本質です。
映画の醍醐味は、単に物理的に画面に映りこんでいるもの以上の何かが観客の心の奥底に食い込んでくるところにあると思います。
そういう意味でも、これは本当に名画です。「戦争映画の傑作」というだけでなく。


派手なシーンがあるわけでもなし、しかし、その場に居合わされるような感覚を強烈に持たせる映画でした。
「その時代を呼び寄せてしまった」というのは、実に見事にこの映画を形容されていると思いました。
自ブログで映画レビューばっか書いていると、
ついつい「分析」的になりがちで、
でもできるだけ感覚で感じるように心掛けてはいるんです。
この映画はそうした感性に訴える映画だと思います。
とても興味深く読ませていただきました。
こちらからもTBをお返ししますね。
今後もよろしくお願いします☆
この映画は、潜水艦という特殊な環境下での緊張感が本当に凄いですね。ドイツと言えば海軍のUボートですから、ドイツがそれを描くのも理解できます。国の期待を背負って出撃し、3/4が未帰還なのですから、彼らにとって忘れてはいけない過去なのだと思います。
戸山公園にカエルたちがたくさんいるから、もういいわけがつかないっすね。
TB&コメントありがとうございました!
また、お褒めいただきありがとうございます。
>派手なシーンがあるわけでもなし........
まったくです。結局のところ、ディレクターズ゙カット版で約3時間半に達するあの長丁場でも、まともに敵を攻撃する場面はただの一ヶ所ですからね。しかも後味悪いという、まさにハリウッド映画商品的な起承転結のまとまりとは全く無縁の世界です。で、それを見て「退屈」という以上の感想が出てくるかどうかで、「ファストフード的感覚」に完全に毒されているかどうかがある程度判るんじゃないかという気がします。
★yokoさん
TB&コメントありがとうございました!
また、お褒めいただきありがとうございます。
>でもできるだけ感覚で感じるように心掛けてはいるんです。
>この映画はそうした感性に訴える映画だと思います。
なるほど!これは重要なポイントですね。映画評にせよなんにせよ、吾輩を含め人間誰しも「これしかない!」という表現がうまく思い浮かばない場合、単に物理的な構成要素を並べた上、それを感情で処理して終わりという展開にしてしまいがちです。そう、感性ではなく感情。でもそれは「義務感による盲目的労働」以外の何物でもなく、要するに魅力的でないので、書くのなら意味のあるものにしたいですの。というわけで、お互い頑張りましょう!
★REALLIFEさん
TB&コメントありがとうございました!
>彼らにとって忘れてはいけない過去なのだと思います。
これに関して非常に興味深いのは、先般行われたドイツNDRテレビの「視聴者が選ぶドイツ映画ベスト100」アンケートで、「忘れてはいけない過去」の取り上げ方として賛否両論の激論を呼んだ『Der Untergang』を抑え、見事『Das Boot』が戦争映画どころか全ドイツ映画のベスト1になってしまったという事実です。
(こちらを参照↓)
http://www.dindex.info/kultur.php?artikelauswahl=226
これ、吾輩的には「おおー、ないす!」と思ったのですが、吾輩のドイツ人の相棒にとっては逆に『Der Untergang』が3位に入ったことが許せないようで.....まー、このへんはホントに難しいっす。
★松千代閣下
>ローレライの後にUボートをぶつけてくるなんて、大人気ないにも程があるなー。
まー、直接攻撃してるわけでもないので、そのへんは大目に見てくらはい。真面目に比較してもつまらんし。
>とりあえず罰として、引き続き『眼下の敵』の映画評を書くこと
>『潜水艦戦争』(レオンス・ペイヤール)の書評を書くこと
『眼下の敵』はいずれ書くでしょう。ハリウッド主義でもこんな感動作が作れるのだー、という意味で。
レオンス・ペイヤールの著作は『潜水艦戦争』よりも『大西洋戦争』の方がいいかもしれません。「英独双方に恨みがあるゆえ中立」というフランス人著者のスタンスがより鮮明になってますし(笑)
★hendayoちゃま
せっかく生粋のドイツ人で、しかも『Das Boot』を絶賛していたんだからさー、もっと比較文化的な観点か何かで書いてよ! え? もう言うまでもないことばかりだから書かないって? しょうがないなー!(爆)
3年ほど前、バヴァリアフィルムシュタットに展示されている「Uボート」のセットを見て来ました。ドイツ海軍の全潜水艦乗組員の3分の2乃至4分の3が「この狭さに、文章で表現できない悪臭が加わる環境の中で戦死したのか・・・」と思うとやるせない気になりました。
気の利いたカキコは出来ませんでしたが、バヴァリアフィルムシュタットの「Uボート」のセットの画像をリンクして、終わりにしたいと思います。
http://www.geocities.jp/dokidokigermanhours/newpage85.html
おお、ドイツからお帰りなさいませ。コメントありがとうございました!
>学校指定というか、学内で上映する反戦映画以上に訴えかけるものがありました。
まったくですね。子供というのは大人が思っている以上にかしこいので、映画にしろなんにしろ、下手に「反戦」の味つけなどすると、むしろ作為的ないかがわしさを感じてしらける事も多いと思います。そういう意味でもこの作品は強烈で効果的でしょう。なんといっても、子供は、精神的な意味での「本物」の存在に対しては敏感に反応しますから。
>バヴァリアフィルムシュタットの「Uボート」のセットの画像
これはありがとうございます。しかしなんですな、本物のUボートでないとはいえ、あの傑作映画の舞台になったという意味では「本物」の文化遺産なので、少なくとも艦橋なんかは野ざらしにせずもうちっとていねいに保存してもらいたい気がしなくもありませんね。でもそういうコダワリがそもそもないのかな? いろいろ考えさせられますの。
★松千代閣下
順位ですか。えーと.....
@『眼下の敵』
A『天使にラブ・ソングを…』
B『燃えよドラゴン』
C『リーサルウェポン2』
まー、こんなところですな(爆)
確かにローレライと並べても大人気ないのですが敢えて禁じ手を笑。
小生も好きな作品ですが、狭さ・臭さ・人間模様(階級・組織)を描いていることで、潜水艦がそのまま外壁を越えて世界の縮図になっており、そこをうまく描いているから面白いと思うところです。
日本の戦争ものは昔のは知りませんが、「ローレライ」にしても「男たちの大和」にしても、いま風呂からあがってきたような、つるつるぴかぴかした、臭わない男しか出てこない。
(日本人の体臭恐怖が画面にも出てきている?)
もうその絵だけで、これは戦争映画ではない。戦争という場を借りた違う話だと思ってしまう。
よく言われるのは、日本の兵器というのは使う人間のことは考えて作っていない(何しろ「特攻」ですからね!)。
日本の潜水艦は乗員は帰港するとほとんど半病人でしばらくは使い物にはならなかったという。ドイツはその辺は末期は別として、考える伝統みたいな体質が兵器にも出てるんですよ。
日本の実情を無視した映画つくりは単なる怠慢でしかない。それを噛み殺してつきあうとすれば、貴殿のようにパロディに…
エントリー、数々のコメント共に大変興味深く拝見させていただきました。ローレライは「娯楽アクション大作」として見てもあまりに稚拙だと感じました。原作ハードカバーの装丁(確か樋口監督自身による)が素晴らしかったので、過度な期待を抱いてしまったのがそもそもの間違いでした。非常に残念なことに、作り手の熱意や誠意を欠片も感じられませんでした。
それにしても良い映画「Das Boot」と言うものはソレが当たり前なのか奇跡なのかわからないですが、素晴らしい楽曲と出会えるものですね。そのような作品に恵まれ、堪能できる私たちはとても幸せだと思います。
コメントありがとうございました!
>狭さ・臭さ・人間模様(階級・組織)を描いていることで、潜水艦がそのまま外壁を
>越えて世界の縮図になっており、そこをうまく描いているから面白いと思うところです。
これは的確な表現ですね! 潜水艦映画のリアリティは音とか艦内風景とか、物理的考証の見地から語られることが多いのですけど、実は「世界の縮図」ぶりをいかに描いているかで説得力が決まるといえば確かにそういう気がします。『ローレライ』や『U−571』では、そこに作者の恣意があふれてしまう感じですからねー。
>日本の戦争ものは昔のは知りませんが、「ローレライ」にしても「男たちの大和」に
>しても、いま風呂からあがってきたような、つるつるぴかぴかした、臭わない男しか
>出てこない。
>(日本人の体臭恐怖が画面にも出てきている?)
これも秘孔突きですねー。そうです。オイルで汚れた男は出てきても、風呂に入ってなさそうな男は出て来ないんです。なぜでしょう。単なる想像力の不足でしょうか? しかし実はここには日本の「戦争映画」の製作目的そのものを考えるカギがあると思います。ということで、そのへんは『男たちの大和』評で書いてみようと思います。乞うご期待。
>よく言われるのは、日本の兵器というのは使う人間のことは考えて作っていない
>(何しろ「特攻」ですからね!)。
>日本の潜水艦は乗員は帰港するとほとんど半病人でしばらくは使い物にはならな
>かったという。ドイツはその辺は末期は別として、考える伝統みたいな体質が
>兵器にも出てるんですよ。
ええ。日本の場合、実際、最後には「こんな貧乏くさい物に乗って死にに行けというのか!」と呆れさせるものばかりつくってますね。特攻専用機「剣」とか、特攻モーターボート「震洋」とか、人間機雷「伏竜」とか。で、ドイツの場合は、そう、末期は確かに変なものもありますけど、それでも即製ジェット戦闘機「フォルクスイェーガー」He162がちゃんと射出座席を装備していたりして、日本の兵器開発センスとの差をしっかり感じさせるものがあります。でもまー、それで戦争行為自体の正当化はできないんですけどね。
ドイツの場合、技術者のプライドと権威性の高さが最後まで保持されています。逆にここには、時節を無視した「超兵器」の開発をしつこく最後までやっていた問題があるわけで、これはこれで別個にトピック化する価値があるかもしれません。
>日本の実情を無視した映画つくりは単なる怠慢でしかない。
まさにその通りですね。それで出来上がる作品は現実とリンクしない「妄想」にすぎないわけで.....
★Vibさん
TB&コメントありがとうございました!
また、お褒めいただきありがとうございました。
>『ローレライ』では、非常に残念なことに、作り手の熱意や誠意を欠片も感じられませんでした。
これはよく判ります。実際『ローレライ』は確信犯的な「超巨大オタク映画」なので、熱意や誠意はそういう「オタク精神の琴線に触れるツボ」に向けて注がれていたといってよいかと思います。だから普通の映画として観た場合は「なんじゃーこりゃー!」という感じなのですが........それでも肯定的な評価をする一般観衆が妙に増えてきている、という事実にこそ、実は注目すべきなのかもしれません。もともとそういう勝算があったから製作に踏み切ったんでしょうし。
にしてもおっしゃるとおり、『U・ボート』の音楽、そして画面とのマッチングの出来栄えは映画史上屈指といって過言ではないと思います。そういう意味ではあの『タイタニック』といい勝負と申せましょう。で、今回は『タイタニック』評を『U・ボート』評に対置させる構成で記事を書いたのですが、その無意識的な動機はひょっとしたらこのへんにあったのかもしれません(笑)
『Uボート』は凄い作品ですよね。
子供の頃から潜水艦が好きだった自分はこの映画を見てすっかり
惚れ込んでしまいました。
噂によると通常版・ディレクターズカット版・テレビドラマ版が
あるとか?真意は確実ではありませんが....
のような、先端的なところもあったんですけどね。
なんで一方の当事者国なのに、こうも潜水艦での
物語が「作れない」でしょうか。
それに飛行機、歩兵の戦記なんてやまのようにあるのに、潜水艦の戦記はほとんどない。