2005年11月23日

映画評 『MON−ZEN(Erleuchtung Garantiert)』 ドーリス・デリエ:「フシギの国ニッポン」映画 その2

movie_mon-zen01.jpg

『ロスト・イン・トランスレーション』を観た後でブーブー言ってた自分に、ドイツ知人が薦めてくれたのがこのドイツ映画です。
概要については、こちらを参照していただくとよろしいかと思います。

「不思議都市」東京を起点に、行き詰まった人生を打開するための「自分探し」の旅を描く、という点ではある意味『ロスト・イン・トランスレーション』と重なる内容なんですけど、主人公が、どの国の基準からみても徹底的にさえない中年オヤジ2人組というのがあまりに対照的です。素敵です。

そういえば『ロスト....』でも、ホテルのラウンジでビル・マーレイに寄ってくるイケてない白人ビジネスマンがドイツ人だった(エンドロールを見るとどうもそういう設定らしい)けど、こちらはドイツ本国直送なだけあって、そのダサさも他の追随を許しません(笑) というわけで、「スタイリッシュで退廃的な諦念」などまったく割り込む余地もない、いかにもおドイツ的な思い込みに満ちた中年兄弟の猪突猛進奮闘ぶりが展開されるわけです。

コッポラ様の作品では、ある意味「主人公=正常/日本人=変」と受け取られかねない描写もあるため、そのへんでつまづいた日本人観客も多いんじゃないかと思うんですけど、本作では「主人公=変/日本人=変」という感じに「公平」なので、日本人にもとっつきやすい気がします(笑)
ちなみにこの映画はコメディに分類されていますけど、そのコメディ性は自己目的じみたお笑いのためのものではなく、作品のテーマに向かって人間行動の本質を際立たせるためのシリアスな手段なので、なかなかあなどれないものがありますね。

でもって、いろいろな紆余曲折の結果、おドイツ兄弟は禅寺で修行して「何かを感得」するのです。そのあたりの描写が、また絶妙でイイのです。
けっきょくのところ日本人どうしだって完全な相互理解は困難というか不可能というか、達成の証明などしようがないわけで、いわんや異文化間においてをやなのですが.....

しかし何かがそこに生まれる

ことの実感を、この映画は実におもむき深く描ききっています。その点、『ロスト・イン・トランスレーション』とは正反対ながらみごとで、あっぱれであります。
「完全なコミュニケーション」の手段がないからといって、それで失望したり絶望してはいけない。相手がエイリアンだろうが何だろうが、お互いに本物の「心」があれば、絶対的に価値ある何かが内面で生まれ育っていくのだから.....ということで、これがなかなか感動的なのです。おやじ兄弟万歳です。


そしてこの映画を観たあと、自分の心の中で、なぜか『ロスト・イン・トランスレーション』を観たときの表面的な不快感がきれいさっぱり消えてゆくのを感じました。そうしたら改めてあの映画の本質が心にしみてきて、ああ、あれもやはり良い映画だったんだなぁ、と「再発見」してしまいました。
ある意味、コッポラ様の世界の主人公たちの問題意識を引き継いで、頑張ってゴールまで走りきろうとしているのが本作の主人公なのかもしれないですね。そんな気がします。

『ロスト・イン・トランスレーション』の後に『MON−ZEN』を観るのは、相乗効果という意味でもけっこうオススメです。
ビル・マーレイとスカーレット・ヨハンソンが最初に見つめあう瞬間、そのとき眼下数百メートルの歌舞伎町の雑踏の中では、この不器用なドイツ人兄弟が....という楽しみ方もありますし(笑)


ということで、ありがとう『MON−ZEN』!!
「日本におけるドイツ年」企画なんだから、ドイツ映画祭2005では『ヒトラー最期の12日間』なんかより、旧作でもかまわずこういう作品をアピールしてほしかったな。
 
posted by 桜樹ルイ16世 at 18:47| Comment(16) | TrackBack(25) | 映画・TV | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして〜Mon Zen 何度見ても面白いですね〜
デリエの映画はどれもこれも毒があって好きです。
Posted by aia at 2005年11月23日 23:02
TBありがとうございました。
この映画のことは知りませんでしたが、
ぜひ見てみたいと思います。

ドイツ映画っていい作品多いのに、
なかなか日本ではメジャーになりきれないのが残念。。
Posted by msas0419 at 2005年11月24日 00:24
凄い見たいです!読ませていただいているだけで
面白くて・・記事が素晴らしい!・・笑。
是非、今度借りて見てみます♪
Posted by nicoco at 2005年11月24日 01:43
TBありがとうございました!
ソフィア・コッポラ監督ってサラっと描いておきながら、
観た直後よりもあとから色々“再発見”出来る作品をつくりますね…。
『MON-ZEN』にばかうけ♪
ゼヒゼヒ観させていただきます!!

Posted by garam at 2005年11月24日 04:28
TBありがとうございました。
この映画については、blogに移行する以前のHPで書いておりますので、よろしかったらご覧ください。
http://ningyo3.hp.infoseek.co.jp/movie/m/monzen.htm
Posted by ningyo at 2005年11月24日 08:17
TBありがとうございました。
「ロスト・・・」とはまた違った、
こういう映画があるんですね〜。
知らなかったです。見てみたい!!


おっしゃるとおり、
文化や環境の同じ人間同士でも、理解できないこともあるけれど、
違う環境の中で育った人間同士が、理解しあえることもあるんですよね。
両方の作品を見て、良さが分かって、よかったですね〜!
私もこの映画を、ぜひ見てみたいと思います。
Posted by tomoko at 2005年11月24日 18:10
 TB有難うございました。
 ぜひ見てみようと思います。
 日本の映画は相互理解というのは「前提」となってしまっていて、場合によっては、それは画面から観客へ「強要」されることもしばしばかと思います(ドラマは最たるものか)。
 もしくは単なる「詠嘆」になっているだけとか。
 まあ、映画の「用途」はいろいろあろうかと思いますが、ご掲載の映画はぜひ見てみます!
Posted by miyatto5 at 2005年11月25日 08:34
★aiaさん
コメントありがとうございました!
そうですねー、『MON−ZEN』、特にドイツ出発前のウーヴェの家庭の情景描写は「毒」てんこ盛りでした(笑) 男にありがちな「無神経さ」をきわめて的確に突いている感じで。しかしそれだからこそ、あの「バカ男」が自力で自分の精神をリフレッシュしていく姿が見ごたえあふれるものになっているんじゃないかという気もします。
なんとも人生を知りつくした「老獪」さが感じられる演出で、そういう意味でも『ロスト・イン・トランスレーション』の若さ・鋭さと好対照を成している感じですね。


★msas0419さん
TB&コメントありがとうございました!
>この映画のことは知りませんでしたが、ぜひ見てみたいと思います。
ありがとうございます(って、全く関係者でもない私が言うのも変だが★笑)
>ドイツ映画っていい作品多いのに、なかなか日本ではメジャーになりきれないのが残念。。
それはいえますね。「ヨーロッパ映画」というと世間一般的には耽美芸術系かオシャレ系というイメージがありますけど、それって実はイタリアやフランスが出処なので、その時点で「質実剛健国家」ドイツはいまいちワリを食ってるような.....(笑)
しかし本作のあじわい深さや『グッバイ・レーニン!』のヒットなどを見るに、ドイツ映画は「真面目コメディ」という独自路線で押してみると良いのかもしんない、などと思ったりします。


★nicocoさん
TB&コメントありがとうございました!
また、ウケていただきありがとうございました。
>是非、今度借りて見てみます♪
ありがとうございます。で、ちょっとレンタ屋を調査してみたところ、でかいTSUTAYAにはけっこう置いてあることが判明しました。よかったです。
しかしあれですな。本作、さすがオシャレ性を放棄した映画だけあってパッケージの雰囲気もいささかダサめなので、誰かから推薦されない限り手に取ろうとはあまり思わん感じです。それがマイナー映画の宿命といえばそれまでですが(笑)、うーむ、これまで、同じような感じでいったいどれほど「隠れた逸品」を見過ごしてきてしまったのだろう、とも思ってしまいました。


★garamさん
コメントありがとうございました!
また、ウケていただきありがとうございました。
>ソフィア・コッポラ監督ってサラっと描いておきながら、
>観た直後よりもあとから色々“再発見”出来る作品をつくりますね…。
これは全くそのとおりだと思います。今回、別の映画を観たあとからじんわりと「核心」のあじわいがよみがえってきたのには驚かされました。まあ、あまり「血統」がどうのとは言いたくないですけど、とにかくただ者でないことは確かですね!


★ningyoさん
TB&コメントありがとうございました!
>この映画については、blogに移行する以前のHPで書いておりますので、
>よろしかったらご覧ください。
おおおお、なんとこれはありがとうございました! 結論の「それぞれ心に悩みを抱えているけれど、解決は禅寺で得られるというわけでなく、それと共に、それを抱えたまま生きることを受け入れるようになっていくようだ」というのは実に端的で的確ですね。でもってあの妙なラストシーンとなるわけです。あれはほんとに妙です。でも、理屈を超えて「ああ、いいなぁ」と思わせる何かがあります。愛すべき何かが。私はそのへんがけっこう好きでありまする。


★nicocoさん
TB&コメントありがとうございました!
>「ロスト・・・」とはまた違った、こういう映画があるんですね〜。
>私もこの映画を、ぜひ見てみたいと思います。
ありがとうございます。確かに「違う」ものながら、何かしら接点があるように思えるのがほほえましいところです。
いささか余談ですが、『ロスト・イン・トランスレーション』のパークハイアット東京での撮影を断られたとき、ソフィア・コッポラが支配人に直談判して情熱で口説き落としたのと同様、『MON−ZEN』のドーリス・デリエ(こっちも女流監督)は門前町の総持寺に撮影を断られたとき、みずから寺に乗り込んで熱心に修行を行って、その本物ぶりに感銘を受けた総持寺側が一転、全面協力を行ったという経緯があるそうです。
いやー、なんというか、すんごい平行世界であります(爆)


★miyatto5さん
TB&コメントありがとうございました!
>ご掲載の映画はぜひ見てみます!
ありがとうございます。両作品とも、絶対観て損のない逸品だと思います。

>日本の映画は相互理解というのは「前提」となってしまっていて、場合によっては、
>それは画面から観客へ「強要」されることもしばしばかと思います(ドラマは最たるものか)。
おっしゃること同感です。しかもその相互理解も実質的に裏づけとなるものがなく、「阿吽の呼吸」みたいな得体の知れない「推定理解」の上に成り立っている感じですからね。また、その「強要」に逆らったり、あるいは気づかなかった人を巧妙に村八分的な立場に追いやる習慣というのがあって、それが非常によろしくないですね。心の目を曇らせるだけですから.....
と、まあ、そんなわけで、
>もしくは単なる「詠嘆」になっているだけとか。
....という消極的な「終着点」が用意されてしまうんですね。なんか悲しいっす。でも、これが我が国の現実の一面。
 
Posted by 桜樹ルイ16世 at 2005年11月27日 01:19
TBありがとうございました♪
↑の作品、面白そうですねw
いつかぜひ観たいです-☆
Posted by とんとん at 2005年11月27日 16:26
★とんとんさん
TB&コメントありがとうございました!
『MON−ZEN』はいい映画ですよー。変ですけどあじわい深い。ということでぜひご覧下さいね〜!!
ちなみに本作の凸凹兄弟の兄の方は、むかし、あのドイツが誇る超激渋映画『U・ボート』で下士官役を演じていました。近所のTSUTAYAに行ったら『MON−ZEN』はDVD、ビデオともあるのに『U・ボート』はビデオしか無かった....知名度からいったら逆だと思うんだが(笑)
 
Posted by 桜樹ルイ16世 at 2005年12月04日 18:18
トラバありがとうございます。^^
オッサン兄弟が日本へ「禅」を学ぶというコンセプトがいいですね。「ロスト」よりも端的に日本を描いている感じと捉えてもいいのでしょうか。
だいたいの方がコメントしている通り、私もこの映画は知らなかったです。探し出して、是非観たいです。
Posted by いちご一恵 at 2005年12月22日 01:48
はじめまして カッコいいブログでスゴイ!
トラックバックありがとうございました。
私もTB貼らしていただこうと思いますが、
まだまだ素人なものでうまくいくことやら…
「ロストイン〜」の評価が分かれる部分を、
上手く説明していただけてうれしいです。
そうそう、それが言いたカッタ!って感じ。
「MON−ZEN」も是非見てみたいです。
教えていただきありがとうございました。
Posted by baltan-zetton at 2005年12月22日 13:00
★いちご一恵さん
TB&コメントありがとうございました!
>オッサン兄弟が日本へ「禅」を学ぶというコンセプトがいいですね。
そうなんです。しかも兄弟のうちで、どちらかといえば成り行きで仕方なく日本に来てしまった(という意味ではロスト・イン・トランスレーションの登場人物に近い)兄の方が要領よく禅寺の生活に溶け込んでしまったり、そういう描写もなかなか面白かったです。

>「ロスト」よりも端的に日本を描いている感じと捉えてもいいのでしょうか。
「端的」というと視点の違いとかもあるので、そういう意味では双方互角の切れ味かもしれませんが、『MON−ZEN』の方はより日本人一般ピープルの生活感覚に肉薄している気がします。あと、見ていて「ああ、こういうニホンジン像が世界に広まると困る!」と思わせるような日本人は一人も登場しませんでした。ストーリーは激濃なのに(笑)

この作品は何故かレンタル屋のミニシアター系・ワールド系コーナーの片隅においてあることが多いので、是非ご覧下さい!

★baltan-zettonさん
TB&コメントありがとうございました!
また、お褒めいただきありがとうございました。
>そうそう、それが言いたカッタ!って感じ。
そうなんです。『ロスト・イン・トランスレーション』はとにかく純粋に感覚に訴える作品なので、「何か奥の方にいいものがある」と漠然と思わせるものがあっても、それを言語的に展開するのはかなり難しいと思います。ひょっとしてこの作品に寄せられた「不満評」の一定量は、そうした「説明ストレス」に起因するものかもしれません(笑)
『MON−ZEN』は同様のテーマ性を保ちつつ論理的に説明可能な作品でもあるので、上記症状の緩和に大いに有益でありました。

>私もTB貼らしていただこうと思いますが、
>まだまだ素人なものでうまくいくことやら…
うまくいってますよー! 夜間の混み合う時間などは失敗の可能性もありますが、何ごとも慣れでありまするー!(笑)
 
Posted by 桜樹ルイ16世 at 2005年12月23日 22:12
TBさせていただきました。
MON-ZEN激しく面白そうですね!
ソフィアコッポラの方は目的意識の希薄さ、
浮ついた感じにどうも馴染めなかったのですが、
これなら大丈夫そうです。探してみます!!
Posted by angrfille at 2006年01月08日 10:01
初めまして!

映画「MON-ZEN」は、地元石川県の新聞で取り上げられていました。
残念ながら、レンタルショップに置いてないんですよね・・・(とほほ)
面白そうな作品ですね。
スカパーさん、放送してくれないかな???

舞台となった総持寺は、何度か行きましたが、とても厳かな雰囲気の素敵な場所です。
機会がありましたらどうぞ。
Posted by 黒猫のみわ at 2006年01月08日 19:38
TBありがとうございました。
こちらからもTBさせていただきます。

僕個人的には「ロスト・イン〜」は非常に好みな映画だったんですが、
「MON-ZEN」もかなり面白そうですね。
「ロスト・イン〜」では描かれなかった『異国での孤独の向こう側』が描かれているのかな?
機会があればぜひ見たい作品ですね。
Posted by YOS at 2006年01月08日 21:24
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